どの話かはさておいて、今日は日中から「(直筆の)色紙100枚」がトレンドに上がっていましたね。
一応現場の書店員としての雑感なんですが、それ自体への是非はひとまず置いておくとして、

――その色紙たちって、どこに行くんだろうか?

というところでしょうか。
私は地方の、規模としてはさほど大きくない書店の人間ですのでそもそもの話こういう作家さんが特別に作っていただいた色紙であったりサインが入った告知物なんていうものはほとんどお目にかかれることがありません。むしろこういうものがいただける、ということになったときには「作家さんが手間をかけて作っていただいたからには売らねば!」となっていろいろ考えて売り場を作ろうとします。

こういうのって、大体は「これどうしても売りたいんです!いろいろやりたいんです!相談乗っていただけませんか?!」という店からの働きかけが出版社の営業にあって、営業さんが編集さんや作家さんとかけあってくれて、「じゃあこうこう、こうしましょう」となって、その中での一環で「書店さんでそこまでしてくださるのならということで色紙をご用意させていただきたいと思います」というようなやりとりがあって実現するものであるのなら、自然かな?と思うのです。

ただ、これが「色紙を作る」ことありきで事が進むのは、作家さんの意志が固い(初めから作家さんご自身の意志で「色紙いっぱい作りたいので使っていただけるところに送ってほしい」くらいの)のであれば別ですが、ちょっと危険な方向かなというのは否めないところです。
特に、「送ればお店が使ってくれると思うから自社集計の販売上位店に送ってしまおう!」とかそういう感じのような雰囲気が感じ取れる場合は特に危険かなと思います。

冒頭の話とあわせると、

その色紙送ったお店、一方的に送りつけてませんか?100%有効に使ってもらえてますか?とても膨大な労力を使ってすべて手作業で仕上がったその100枚の色紙が、です。専門店さんや中心街の大型書店(客数があって目に触れられる頻度が高そうなところ)に大体行き渡っておしまい、じゃないのかなと。1.2万店舗ある書店、そのうちコミックをちゃんとやっているところはおそらく半分くらいじゃないかと思います(※)が、だからこそ私はその「色紙100枚」がどこに行くのかが気になります。これだけのリアル書店が存在しているのですから、100%有効に使える店に100%行き渡っている状況で結果的に「色紙100枚」になっているのであればそれはもちろん販促のうえでは位置方法論としては有りかなと思います。
(※大手出版社各社のフェア参加店数からの私の類推です)

もしそうでないのであれば、どなたか作家さんが仰られてましたが数が必要なら「複製色紙」で良くないですか?(現に一部版元さんは最初から拡材で「複製色紙(ミニサイズ)」を送ってくれたりします。これは正直うれしいです。)

売り場を預かる身としての個人的なスタンスですが、「作家さん直筆のなにか」ってプライオリティめちゃくちゃ高いんですよ。自発的でない限りそんな易易と作っていいもんじゃ無いと思ってますし、作る場合も「なにか明確な基準や線引き」がいると思っています。

先に上げた自分の店でフェア頑張りたいから相談乗ってください!の延長線上のようなケース以外だと、例えば「新店オープンで、この作家さんのフェアを作りたいので商品と拡材が欲しいです」といったようなケースでの”新店オープンおめでとうございます”色紙だったり、「新刊の仕掛け施策の一環でチェーン内で陳列コンクールをやりたいので、仕入れ部数の打ち合わせと、コンクール入賞店用の景品(入賞店は作家さんに決めてもらうなど)へのご協力」といったような施策の一環で極少数色紙を作るようなケースは考えられるかなと思います。当然ながらこういうのの締切は超ゆるくでお願いをします(それこそ「作家さんが完成させた時が締め切りです」くらいのニュアンスで)。
あと最近増えてるのはSNSが活発な書店が作家さんフェアをやったりして「あのお店の棚すごい!うれしい!色紙送ります!」みたいなのですかね。これなんかは最近の健全なやりとり事例だと思います。

長くなってきたのでこのへんで話終わらせますが、作家の皆様に現場の書店員としてお伝えしたいのは「描き下ろしていただいた色紙(販促物)、めっちゃ尊いです・・・本当にありがとうございます」というのと「依頼があったときは、その意図が明確であるのかどうかは確認したほうがいいと思います」といったところでしょうか。万一断っても店側には「作家さんのスケジュール的にちょっとそこまでは難しいですね」という連絡が営業経由で行きはしますが”断ったせいで展開してくれなかったらどうしよう”といったような迷いは不要です。なぜならこちらも作家さんが忙しいというのは重々承知のうえでご相談差し上げているわけですし、そういった提案をしてくる書店のコミック担当者はそもそもその作品や作家さんのことが好きで「どうしても推しアピールしたいからどういう形でやろうかな」というプランのうちのひとつとしてお話しているはずなので色紙が難しいと伝えられても推すことに変わりは無いのです。(なのであとからすごい推してるのがなにかしら経由で作家さんに伝わって、推して頂いてありがとうございます感謝伝えたいですということでなにかしらいただけたりしたらもう担当は泡吹いて尊いのダイイングメッセージを残して最終的に大復活します)

色紙の話をし出すと、サイン本の話もしたくなってきてしまうのですが、お腹がすいたのでこの辺にします。

作家さんあっての書店です。作家の皆さんが創ったものが無ければ我々は成り立ちません。当たり前のことではあるのですが、私はそのことだけは常に肝に命じて日々の仕入れや企画に取り組むことを忘れないようにしたいと、改めて思うところです。